2013年2月25日月曜日

高野秀行著 『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』

アフリカ事情に疎い日本人が多い中でも、さすがにアデン湾への自衛隊派遣については聞いたことがあるのではないだろうか。
要は、ソマリアという崩壊国家に巣食う海賊が諸外国の貿易船舶を襲撃するため、護衛のためにソマリア沖を自衛艦が航行しているのだ。
このような経緯から、ソマリアについて、日本では「海賊国家」というような認識をしている人が多いのではないだろうか。

僕がソマリアという国を初めて認識したのは、映画『ブラックホークダウン』であった。
ソマリアにおいて国家が完全に崩壊し、乱立する武装勢力による群雄割拠の内乱状態にあるところへ、国連軍(という名のアメリカ軍)が軍事介入をしたところ、武装勢力によって返り討ちにあってしまった、という内容の映画だ。
(こういう書き方をすると身も蓋も無いが。)

僕にとってのソマリアは、その映画を観て以来、情け容赦の無い凶暴な人々の国、というイメージが強くなってしまった。

が、その後、現代アフリカについて書かれた書籍を10冊、20冊と読み進めるうちに、アフリカの国家はソマリアに限らずどこも、いったんバランスを崩すと同じような無法地帯になるのだなー、という印象を持つに至った。

ただ、日本で特にアフリカと直接関係の無い生活を送っていると、アフリカに関する情報というのは非常に少ない。大型書店のアフリカ関連コーナーの貧弱さを見るにつけ、日本語で入手できる情報の少なさに残念な思いを抱かずにはいられない。

そんななか、著者自身がソマリアに入国して、実際に目で見て耳で聞いたことを綿々と書き綴った作品が出版された。
それが『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』である。

著者は高野秀行。
早稲田大学探検部の出身で、アフリカ、中東、アジアの、主に治安の悪そうなところを中心に出歩いて取材し、ノンフィクションにしたためている作家だ。
著者の初期の作品は、早稲田大学探検部らしく気を衒った、良くも悪くもうわついたトーンの作品が多いが、『謎の独立国家ソマリランド』は非常に腰の据わった印象を受けた。

タイトルにある「ソマリランド」は、ソマリアの北部が独立宣言をして独立国家を名乗っている、その国の名前だ。が、ソマリランドを独立国として認めている国は無い。
正直なところ、本書を読むまで僕は、ソマリランドは内戦が行われているような地域にありがちな、武装勢力が勝手に名乗っているだけの実態の無い存在だと思っていた。
が、本書によれば、その認識は大きな間違いであるようだ。

ソマリランドでは、自国通貨であるソマリランド・シリングが主に使用されており、きちんと機能しているという。
しかも、治安も極めて良好であるという。

治安が極めて良好だ、という情報は、実は本書に先行する日本語での書籍にも記述があるという。
1つが『アフリカ21世紀』。もう1つが『カラシニコフ』。本書で、その2作品が紹介されていた。
前者については読んだことは無いが、後者は、出版されてすぐに読んだ。いろいろと印象に残っている作品だったのだが、ソマリランドの治安が良好であるということに言及していたという記憶が全く残っていなかった。きっと単純に、印象に残らなかったのだろう。


さて、肝心の本書の話だが、先に述べたように、著者の作品にありがちな浮ついた感じが良い意味で薄らいでいながらも、軽妙なテンポの語り口は健在で、非常に読みやすく、しかも頭に残りやすい。非常に好感を持った。
特に、ソマリ人の社会における非常に重要なファクターである「氏族」の概念を、日本の鎌倉~戦国の武将に例えるなど、便宜的な手法であるにせよ、著者の作家としての腕の成せるワザであると感じた。

内容についても、相変わらず並のジャーナリストでは成し得ないようなアプローチから、草の根レベルの取材で以て謎を1つ1つ解き明かしている。
その甲斐あって、この手のアフリカものにありがちな「で、結局なんでそうなんだ??」というモヤモヤが生じず、納得感の強い作品に仕上がっていると思う。というか、僕がここ5年ぐらい持ち続けてきたソマリアについてのモヤモヤが大幅に解消された。
また、それ以上に、なんといっても、ソマリ人ひとりひとりの息遣いを感じられる筆致は、高野節の面目躍如といったところではないだろうか。

これまで現代アフリカ関連の書籍は多数読んできたが、本書はその中でも群を抜く作品だと言って過言は無い。


2013年2月24日日曜日

はじめに

僕は、無軌道に本を読む。

仕事の役に立てようとか、なにかの試験に合格しようとか、そんな気持ちはもうとっくの昔に無くなった。
知らなかったことを知ることにより、頭の中でパズルのピースがカチっとはまったような感覚があり、ただただその快感だけを求めて本を読むのである。
ある種の淫欲であると言っても、それほど間違いでないだろうと思う。

このブログは、そうやって読んだ内容を自分の頭に定着させるための、単なる個人的な読書メモだ。
誰かの役に立つとも思えない個人的なメモを公の場で発表することは、まさしくトラフィックの無駄に他ならないが、どうかご容赦いただきたい。

まさかこんなブログから何らかの示唆を受けようとする人もいないとは思うが、ここに書く事は完全に個人の印象ベースの話であり、正しい情報であることを保証するものではないので、あしからず。