2013年5月4日土曜日

国分拓 『ヤノマミ』

僕はあまり、アマゾンの先住民の話にはそんなに惹かれない。どう考えれば良いのか分からず、混乱してしまうのだ。

が、NHKスペシャルで採り上げられた「ヤノマミ」という先住民の話がとにかくスゴイ、という話を聞いて、ちょっと読んでおこうかと、軽い気持ちで手に取った。それが、そのNHKスペシャルの書籍化である『ヤノマミ』である。

軽い気持ちで手に取ったのだが、読み始めてみたら、なんと重いことか。

そもそも、NHKスペシャル取材班は150日間もこのヤノマミの集落に住み込み、先住民の生活に密着取材を行っている。
NHKスペシャルのプロデューサに以前聞いたことがあるのだが、NHKスペシャルのスタッフは、その都度都度、NHKの各所からスタッフをピックアップして、タスクフォースのようにチームを組むのだそうだ。
本書の著者であり、当該番組のディレクターは、どういう経緯でこの番組に携わることになったのだろうか。プロデューサ命令であったのだろうか、それとも志願であったのだろうか。ものすごく気になる。僕だったら、とてもじゃないが、150日間もヤノマミの集落に起居するなど、無理だ。

本書はまず、ヤノマミの日常を紹介するところから始まる。
日々のルーチン、ライフスタイル、ヤノマミ以外の人々に接する態度などなど。
完全に異文化である。

そこから次第に、ヤノマミのイベントごとなどの非日常の風景や、ヤノマミの人間関係など深い部分に話が進む。

後半に入ると、出産について描かれている。
そこには、我々が考えるような出産の話とは、全く異なる世界が繰り広げられる。
言ってしまえば子供の間引きなのだが、その在り方の前には、我々の倫理観などとは全く異なる世界観に支えられた、ヤノマミのエコシステム(という表現が正しいのか分からないが、他の言葉が思いつかない)の存在を突きつけられる。
古い日本社会でも、「7歳までは神のうち」という言葉に表されているように子供の間引きは存在していたわけだが、ヤノマミのそれは、日本とは大きく異なる。

さらに話は、先住民と文明社会の接触について展開する。
文明化される若い世代、それに伴って失われる固有の習俗。先住民の話を取り上げるドキュメンタリーでは定番のテーマだが、ヤノマミと150日間起居を共にした著者の筆を通してそれが語られるとき、「先住民固有の文化を守れ!」というような、単純なイデオロギーでは語ることができない葛藤を、読者である我々も共有することになる。

あとがきでは、映画監督の吉田喜重氏の言葉として
「人間が解決のできない問題を提示することこそ、ドキュメンタリーなのではないか」
という解釈を間接的に表現している。
また、同じく、舞踏家の田中泯氏の言葉として
「分からないということは素晴らしいことなのだ」
ともしている。
そう、ヤノマミに象徴されるような、文明と先住民の問題に対して「良いこと」「悪いこと」と断じてしまうのは、単なるプロパガンダであり、ドキュメンタリーではないのだろう。
そして、読者としての僕の中にも、重たい何かがズシリと残り、持って行き場が無い。


余談だが、村上春樹さんの『1Q84』の中に、文明側が道路を作ったにもかかわらず、その道路を避けるように歩く先住民の話が登場するが、あれはどこの先住民だったか。
ヤノマミもまさに、道路を避けて歩く。
『1Q84』では、道路を避けて歩く理由が述べられていなかったが、本書では単純に、道路は直射日光がキツくて熱いからだと述べられていた。
意外と、物事の答えなんて単純なものなのかもしれない。


追記:
NHKオンデマンドで、テレビ版を視聴した。
映像が伴うと、書籍とはまた異なったインパクトを受けた。
が、70分ちょっとという短い時間の中で伝えられることは、そう多くない。
やはり書籍を読むべきだと強く思う。
書籍を読んで初めて、取材者の見たこと、感じたことをよりダイレクトに理解することができると思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿