2013年4月24日水曜日

塩野七生 『ローマ人の物語41 ローマ世界の終焉(上)』

『ローマ人の物語』文庫版41冊目。
単行本では、ここからが最終巻であるが、文庫版はこのあと2冊残っている。


41巻冒頭の「カバーの金貨について」は、いきなり以下の文章から始まる。
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人間ならば誕生から死までという、一民族の興亡を書き終えて痛感したのは、亡国の悲劇とは、人材の欠乏から来るのではなく、人材を活用するメカニズムが機能しなくなるがゆえに起きる悲劇、ということである。
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実際、41巻では、人材という意味では充分な人物が、縦横無尽の活躍の末、報われない死に方をしていく様が描かれている。
その「人物」とは、「最後のローマ人」と呼ばれる将軍スティリコである。

時は、テオドシウス帝が亡くなるタイミングから始まる。
テオドシウス帝は自身が死ぬに先立ち、2人の息子に分担して国を治めるように計らい、その後見役を有能で忠実な右腕であった将軍スティリコに託した。

が、結果として、2人の息子は「分担」ではなく、東と西に国を分かち、別々に治めるようになった。
これに伴い、東側の宮廷の差金で、スティリコは全ローマ帝国の軍総司令官の立場から、西側、すなわち西ローマ帝国だけの軍司令官にされてしまう。

その後、本書はスティリコを追い続ける。
東ローマ帝国に書くべきほどのことが無かったから、ということもあろうが、同時にそれは、著者が冒頭の「カバーの金貨について」で述べた、人材が活用されないことの悲劇を描きたかったからではないかと感じた。
いや、「活用されない」などという生易しいものではない。
人材であるがゆえに、使い潰され、つまらぬ最後を迎え、それを引き金に西ローマ帝国は下り坂を転がるスピードが加速度的に増していくのだ。

読んでいて、イライラする。
多くのサラリーマンは、どうしても感情移入せずにはいられないだろう。



余談だが、本書に掲載されているスティリコの肖像を見るにつけ、面長で長身であることが見て取れるのだが、そのようなビジュアルに加えさらに、使い物にならないような素人兵士を上手く使って戦績を上げるところなどから、あるコミックの登場人物を連想した。
それは『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』に登場する常木楷という登場人物だ。
常木は通称「羊飼い」と呼ばれており、凡才ぞろいの兵士(=羊)を上手く操って戦績を挙げていくという現場指揮官として描かれている。
スティリコを見ていると、どうしてもこの常木のイメージとダブってしまって、余計に感情移入をしてしまうことだ。


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