2013年4月28日日曜日

塩野七生 『ローマ人の物語43 ローマ世界の終焉(下)』

『ローマ人の物語』文庫版43冊目。
ローマ人の物語は、これで完結である。

かねてから著者は、オリエントな東ローマ帝国は非ローマだというスタンスを取っていた。
それがここに来て、「東ローマ帝国」という言葉を使わず、「ビザンツ」「ビザンチン」という言葉を使うようになったところにも現れているように感じた。

42巻ですでに西ローマ帝国は滅んだ。
43巻に描かれているのは、西ローマ帝国が滅んだあとの跡地での出来事である。
なぜ、著者はそこまで書き進めたのか。
思うに、それは本書が「ローマ帝国の物語」ではなく、「ローマ人の物語」だからなのだろう。

195ページに、プロコピウスの「ゴート戦記」を引用して、以下のように記述している。
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これが、かつては世界中の人々から憧憬の念で見られていた、輝けるローマ市民の現在の姿であった。
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つまり、ここまで描ききることによって、本当の「ローマ人」の終わりまでを描こうとしたのだろうと。


この43巻は、次に訪れる中世暗黒時代の到来を示すような記述にも溢れている。
その一例が、155ページ。
ローマ防衛のためにベリサリウスが城壁の補強工事を急いでいる際の様子について。
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カトリックの聖職者たちは、その部分の城壁は完璧だから補強の必要はない、と言う。なぜかと問うたベリサリウスに、聖職者たちは答えた。聖ペテロが守護しているという伝承があるからだ、と。
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この論理破綻の在り方は、アメリカの保守派による進化論否定にも引き継がれているのではなかろうか。


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